2019.08.16
梅雨が明けたばかりの7月の終わり、加茂郡白川町黒川にある白川茶銘茶製造販売元「嶋田園」をお訪ねしました。黒川は白川町の東に位置し、町の中では標高が高く冷涼な地域です。山の麓に棚状の田畑が広がっています。
明治32年創業の嶋田園です。家内工業で親から子へと5代に渡り白川茶の味を守り続けています。
嶋田園のお茶造りと販売を支える藤井佐奈子さんです。嶋田園(藤井家)に嫁ぎ25年が経ち、主婦業、育児をこなす傍ら、嶋田園の茶業に携わってきました。嶋田園は荒茶加工、仕上げ加工、販売に特化しています。茶の栽培は行っていませんが家族で茶摘みを楽しむ程度の小さな茶畑があります。
藤井家の茶畑は棚状の畑の一番上にあります。白川町の茶摘みの時期は遅く、ゴールデンウィークが過ぎてからになります。そして嶋田園では一年で一番忙しく大切なシーズンを迎えます。嶋田園では白川町で摘まれた茶葉を仕入れ、お茶に仕上げます。白川町黒川地域の農家では小さな茶畑を所有する人が多く、100軒ほどの農家が毎年新茶を摘み嶋田園に製茶を依頼します。隣接する七宗町は近年茶業組合が解散したため、嶋田園に製茶を依頼する農家が増えています。
茶葉を出荷した農家は荒茶を受け取り毎年美味しい新茶を楽しむことができます。黒川の人々が「白川茶はおいしい」と言って一日に何杯もお茶を飲む日常がこの荒茶にあるのです。
「水出しにすると美味しいですよ。」藤井さんが嶋田園の特上煎茶の水出しを用意して下さいました。華やかなで香ばしい香りが鼻に抜けます。すっきりとした甘さを感じます。水色は黄金色かかった黄緑色です。フローラルな香りが独特です。その香りはお茶の製造方法に理由がありました。
直売店の近くにある嶋田園の製茶工場を見せて頂きました。写真は藤井さんが撮影した製茶時期の写真です。工場の1階には農家さんが持ってきた茶葉を入れておく専用のトロッコが並びます。トロッコの底は通気性をよくするための工夫がされ、風を通しながら茶葉を一晩寝かせます。この工程を「萎凋(いちょう)」と言います。日本茶は新鮮な茶葉を蒸して殺青します。萎凋は中国や台湾の烏龍茶造りには欠かさない工程です。萎凋によって葉が萎れ酸化することで微発酵し、フローラルな香りやフルーティーな香りが生まれるのです。
一晩寝かした茶葉は2階の工場へ運ばれ製茶されます。嶋田園では一番茶のみを製造します。昔、茶農家では摘み取った茶葉を土間に広げて選別しました。加工するまで茶葉が傷まないように時々ひっくり返して通気性をよくしました。昔は摘みたての茶葉をすぐに蒸すことができず、一晩寝かせる工程が必要となり、その造り方が守り継がれて行きました。一晩寝かせ、萎凋の工程を促すことで、嶋田園のお茶は華やかで甘い香りが特徴となりました。時代の移り変わりや、機械化の発達により、お茶の味わいが変化してゆく中、明治の頃から変わらない白川茶の味を愛する人が黒川には多くいます。
嶋田園「特上煎茶」の茶葉です。茶葉自体はトウモロコシのような甘い香りがします。藁色かかった黄緑色です。80℃~70℃のお湯で淹れると甘くフローラルな香りが立ち、ほっこりとした気持ちになります。渋みと甘味のバラスがよく、軽やかな印象を与えます。郷土料理の朴葉寿司や五平餅によく合う優しい味わいです。
嶋田園は明治の頃から長野県にお茶を販売しています。毎年、新茶が出来上がると長野県まで配達に行きます。昔から変わらないお茶の味に、懐かしさや思い出も受け継がれていく安心感が伝わってきます。最近、嶋田園に訪れたロシアからのお客様の要望に応え、歌舞伎浮世絵のパッケージも登場しました。
茶業に携わる農家が減少する中、嶋田園のように昔ながらの白川茶を製茶できる工場が元気に稼動していることは、白川茶の未来を明るく照らしています。
白川茶銘茶製造販売元 嶋田園 岐阜県加茂郡白川町黒川2724
TEL 0574-77-1025
FAX 0574-77-1052
《これまでの記事》
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平林典子(ひらばやしのりこ)
「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。