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岐阜のお茶旅 vol.29_自然栽培から生まれる白川薪火三年番茶 和ごころ農園

2019.11.18

 

10月の終わり、白川町黒川地区の「和ごころ農園」自然栽培の茶畑には可憐な茶の花がたくさん咲いていました。山の斜面にある茶畑からの眺めは清々しく、長閑な山里の家並みが広がります。柿の葉も赤く色づき始め秋の深まりを感じさせます。

 

 

茶の花は可愛らしく、ほのかに甘い香りがします。直径3㎝ほどの椿の花に似た小さな花です。白い5枚の花弁の真ん中に黄色い蕊が集まっています。

 

 

剪定をしない、自然の中で育つ茶の木は空に向かって伸びてゆきます。秋から初冬にかけて花が咲き実(種子)を付けます。一般的にお茶を生産する茶畑では、良質の葉をつけることに栄養が行くように花になる部分は早くに取り除かれます。

 

 

この茶畑を管理している「和ごころ農園」の伊藤和徳さんと純子さんです。お二人はご夫婦です。2010年から白川町黒川地区で農業に携わります。自然に寄り添いながら地に足を付けて暮らしてゆく希望を叶えるため、脱サラをしてこの地に移住しました。農薬や肥料を使わない自然栽培でお米、大豆、野菜(年間50品目ほど)を生産しています。この茶畑は管理ができなくなった地元の農家さんから預かりました。高齢化が進み耕作できなくなった茶畑が増えていることはよく耳にします。伊藤さんは2018年からこの茶畑の茶木を薪火三年番茶にしています。薪火三年番茶は三年以上成長させた茶木を冬場に根本から刈り取り、太い枝、細い枝、茶葉のそれぞれを薪火で焦げる寸前まで焙煎して作ります。伊藤さんは、2月~3月に刈り取った茶木を1㎝ほどに機械で寸断し、奈良県の「健一自然農園」へ自ら運び薪火三年番茶に仕上げてもらいます。茶畑の手入れは草引きのみで、無農薬、無肥料の自然栽培です。

今年の春、茶木を寸断する機械の一部が故障し、このままでは製茶ができない状況になってしまいました。予約販売に支援して頂く形で「白川町産の三年番茶を広めていくプロジェクト」を立ち上げ発信していったところ、全国各地からの多くの支援を頂き、40万円ほどかかる新しい機械を購入することができました。このプロジェクトをきっかけに「和ごころ農園」や薪火三年番茶、そして白川町の存在を知る人も多かったはずです。薪火三年番茶を作ることで、担い手不足により放棄されてしまった茶畑が有効活用できます。焙煎に使う薪は、山林の手入れをするために伐採した木々を使用するので自然環境保護に役立ちます。薪火三年番茶が作られる背景には自然の循環と農作物への愛情が込められています。

 

 

三年薪火番茶はスモーキーな香りがします。渋味がなく、ほのかに甘く後味がすっきりとしたミネラル感が心地よく残ります。胃にも優しく体もじんわりと温まります。たっぷりと飲めるので寒い冬の水分補給には強い味方になりそうです。

 

 

薪火三年番茶で茶粥を焚いてみました。番茶の香りと味がお米に染み込んでとても美味しいです。優しい滋味な味わいは、体の中に溶け込むように入ってゆきます。

 

 

「和ごころ農園」の春の茶畑です。子供の背丈を越えそうな茶畑で新茶を摘みます。今年の春に開催された「EDIBLE KUROKAWA YARD プロジェクト」のイベントです。自然の営みに感動しながら食と命のことを考えます。伊藤さんは農作業体験や食育プログラムの開催を積極的に取り組んでいます。

 

 

薪火三年番茶の畑の新茶葉です。

 

 

釜で炒って包種茶を作ります。大人も子供も一緒になって五感で体感し味わうことで、毎日食べるご飯やお茶が愛しく感じられる。私たちの体は食べ物でできていることを改めて実感します。農業はすべての学問に通じていると伊藤さんは語ります。茶摘みをして自分の手でお茶を作って、お茶を淹れて、みんなで飲む事を体験した子供たちや大人たちはきっと「お茶好き」になることでしょう。

寒い冬の日は氷点下10度にも下がる白川町です。来年も、その次の年もお茶の木はのびのびと元気に育ち、心も体もほかほかに温まる美味しいお茶が生まれる事に、感謝の想いが生まれてきます。

和ごころ農園 岐阜県加茂郡白川町黒川162
TEL 0574-77-1277

 

 

《これまでの記事》
●vol.1_見渡せば、山、山、山。山の中の岐阜のお茶
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この記事を書いた執筆者

平林典子日本茶アンバサダー

平林典子(ひらばやしのりこ)

「Lacue チーズ・お茶・ワイン」の教室を運営。セミナーやイベントを開催。煎茶道黄檗松風流師範。チーズプロフェッショナル(CPA認定)ソムリエ(JAS認定)中国茶インストラクター(ロ・ヴー認定)茶道の季節を愛でる思いを大切に、気軽に楽しく、美味しく、自由な発想でお茶を楽しむ教室やお茶会を開催しています。