2020.02.23
空気や太陽は無くなると困るものですが、あるのが当たり前になっていて、注意深く意識を向けられることがなかなかないですよね。
食品で言うとお米や豆腐、お出汁、そして日本茶。
まだ他にもたくさんありますがこのあたりは日本人にとっては空気のような存在、食のインフラではないでしょうか。
ここをとても大切にしている人と、雑になっている人とに二極化しているように感じます。
伝統的な製法で作られたものを味わったことのない人たちもたくさん増えています。
現代において伝統的とされているものも、いつかの時点では革新的、時には異端とされてきたわけで、ここに留まることが正しいというわけではありません。
しかし一度失われてしまうと元の姿を知るのがとても難しいことを知っている現代人としてはしっかりとアーカイブしつつ、進んでいきたいと思うのです。
日本茶の直近の進化だと、雑誌などでよく取り上げられるのは提供スタイルやアレンジの変化、さらなる六次化(お菓子やボトルティーなど)ですが、近代における進化の最たるものはやはりペットボトルティーでしょう。
消費低迷の要因というとペットボトルティーの台頭を挙げる人がいますが、ライフスタイルの変化や飲料の多様化などたくさんの要因が絡みあった結果であって、日本茶を飲む習慣が残ったのはペットボトルティーのおかげかもしれません。
日本茶を茶葉から淹れて飲む人が減っている原因はこんなところでしょうか。
a) 急須を使うことを考えたこともない
b) 急須で淹れて飲む習慣がない
c) 急須がない
d) ライフスタイルにあわない(急須・カフェインなど)
e) めんどう
f) 淹れるのが難しい
g) もっと他に好きな飲みものがある
h) 美味しいと思わない
書いてたら気が滅入ってきました(笑)。
aからfまではティーパックにすることでクリアーできそうです。
同じ原料茶ならティーパックよりも急須で淹れた方が美味しい(そのうえ安い)ですが、昨今原料の質を上げたりテトラ型にしたりして美味しいティーパック商品が出ているので、わたしはティーパックをもっと推すことで日本茶の飲み手人口を増やすことができると考えています。
とすると課題はgとhです。
根っから日本茶の風味が苦手という人は別として、美味しく淹れられたお茶と出会うことで突破できそうです。
急須で淹れたお茶を飲んだことのない人も増加していますし。
それと嗜好の変化がありますね。
最近だとタピオカティー、ちょっと前だとフルーツウォーター(デトックスウォーターとも。すっかり見なくなりましたが。。。)に象徴されるように、香りがよくて淡い甘みのドリンクをちびちび飲むのがトレンドとなっています。
ペットボトルティーも苦みや渋みのない味になっています。
飲まれる目的が、水分補給なのかそのものを味わうことなのか料理とのペアリングなのか、目的によって対応していく必要がありますが、味わいはスッキリしていて香りがいいことはひとつの方向性としてありそうです。
ハーブや香料で着香することでニーズに応える商品が生み出されてきましたが、お茶そのものを香るものにアップデートする動きがここ10年ほどありました。
意欲的な生産者さんが台湾茶に学んだりして作ったハイレベルの商品がありますが、量産が難しいことからなかなか普及していません。
そんな中で静岡県が開発したのが、煎茶の製造工程に香りを発揚させる工程を組み込んで量産するシステムです。
煎茶の色を保ちつつ花のような香りのする「香り緑茶」の誕生です。
静岡県は、生産量は日本一、なんといっても深蒸し茶を開発して大ヒットさせた実績がありますから、新たな潮流を生む可能性は大です。
そこで日本茶アンバサダーサミットでも今後のトレンドとなる、日本茶の未来を切り拓くお茶としてアンバサダーの皆さまにご紹介をさせていただきました。
香り緑茶をつくっているのは現状3軒です。
「宗平」を作っているJA大井川さんは開発の初期段階から関わっています。
お茶好きでない人、ハーブティーを飲んでいるような人を取り込んで、2倍近く時間をかけて作っている生産者さんに価格の面でも報いられるようしたいと、茶業センター金谷工場販売係長の進士さんは想いを語っていました。
静岡のお茶どころを抱えている農協さんとして期待を背負っていらっしゃることでしょうね。
この大きな仕上げ工場が香り緑茶の香りで満たされる日が来るかもしれませんね。
華やかな香りの宗平はスイーツと好相性。
2月いっぱい、麻布十番の可不可でデザートとペアリングして提供されています。
ぜひお試しください。
「花ここち」を作っているのは勝間田開拓茶農協さん。
2019年から機械を導入して、試験場のデータをもとに、自社の環境で製造をするために実地で研究しています。
こちらでは特深蒸しを売りにしていますが、花ここちについては香りをたたせるために浅めに蒸して作るなどして取り組んでいます。
また、焙じたものやかわいい缶入りなどライン展開していて、力が入っているのを感じます。
お話を聞かせていただいた優しい笑顔の山守さん、横山さんには、厳しい状況を自力で突破してきたご先祖さまから受け継いだ血が流れています。
かつて牧ノ原台地を開拓したように、戦時下にコンクリートをしかれて滑走路になった茶畑を再び開墾したように、不屈の魂で香り緑茶の道を切り拓いてくれそうです。
「森のおくりもの」を作っているのは成茶加納さん。
かつて深蒸し茶を世に送り出した立役者の一社で、香り緑茶も県での取り組みを耳にするや手を挙げて開発に取り掛かりました。
「森のおくりもの」はペットボトルティーをふだん飲んでいる人たちに親しんでもらえるようなスッキリした風味に仕上げています。
ドリップタイプなので、お湯を注ぐすきから香りが立ち上って、香り緑茶の魅力が発揮されます。
目の付け所や時代を読む目がさすがです。
歴史からなにから造詣が深くアイデアマンの3代目加納社長のお話はとても勉強になりました。
2月20日から広尾の天現寺橋交差点に先月オープンしたカフェ麻布2°(deux ten)で、森のおくりものにあわせてつくったお菓子といっしょに楽しんでいただけます(お茶がなくなり次第終了)。
ぜひ足を運んでみてください。
香り緑茶は風味に加えて、熱いお湯でさっと淹れられるのがもうひとつのポイントで、まさしく今の嗜好、ライフスタイルに合致しています。
忙しくお仕事をされている方、温度管理がネックになっていた飲食店でも取り入れてもらえることが期待できます。
香り緑茶が日本茶の行く道を明るく照らしてくれることを願っています。
*香り緑茶のホームページが立ち上がっています。
製法や生産者さんについて、詳しくはこちらをぜひご覧ください。
https://kaoriryokucha.com/
満木葉子(みつきようこ)
日本茶アンバサダー協会代表理事