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<特集記事> Tea Pairing 考察~ソムリエ森上久生さんに伺うペアリング理論~

2016.02.15

ここしばらくでじわじわっと波がきているティーペアリング。日本茶の新たな活路としてこの動向を興味深く観察してきました。フレンチでノンアルコールのペアリングの一つとして、或いは中国茶で全てペアリングした中華料理店など、広まりつつあります。
日本茶のティーペアリングにおける課題や可能性を考察していきたいと思います。

ペアリング本家本元のワインのスペシャリストに、そもそもペアリングとは何かというところから教えていただこうということで、人気ソムリエの森上久生さんにお話を聞かせていただきました。

写真(1)

森上さんを訪ねたのは表参道の骨董通りを脇に入った閑静な住宅街に佇むスリムなビルの3階。昨年の9月にオープンしたI・K・U青山。

森上さんは、レストランサンパウやベージュアランデュカス東京を経て、昨年のオープンとともにI・K・U青山に。こちらのエグゼクティブソムリエとしての顔と、さまざまなシェフやワイナリーとのコラボレーションを通してワインの魅力を伝える伝道師としての顔をお持ちです。

わたしが森上さんとご縁をいただいたのは昨年の夏。日本茶アンバサダー協会の顧問をしていただいている宮下大輔さんとのお打合せで麻布十番可不可を訪ねたときのこと。直前まで可不可で開催していたイベントに出演されていた森上さんに、持ち合わせていた碁石茶を淹れさせていただきました。
碁石茶を気に入ってくださって、I・K・U青山のオープニングからノンアルコールペアリングでメインのお肉とあわせるかたちで組み入れてくださっていると伺い、取材をさせていただくことに。

百聞は一食に如かず!コースのお食事をいただきながらお話を伺いました。

写真(2)

コースは1種類。柚子のジンジャーエールからスタート。

写真(3)

ピリッとした生姜が味蕾をクリアーにリセットして、これから始まる食の冒険に加わるための洗礼をさずけるよう。ふぁ~っとたちのぼる香りがワクワク感を盛り上げます。

I・K・U青山といえば、のコールドプレスジュース。

写真(4)

それぞれテーマがあって、飲む順番も決まっています。
右から、デトックス、ビューティー、パワーチャージ、この順番で飲んでいきます。

デトックスはキャベツ、ビューティーはバターナッツ、パワーチャージはビーツがベースになっていて、さらにフルーツや野菜が加えられています。

写真(5)

ナチュラルハーモニーさんから届く、自然栽培の濃い素材の味の、季節や日々の微妙な変化にあわせて配合を調整し、毎日2時間かけて絞っています。
続いてはマイクロリーフとアボカド、生ハム、サーモン、甘平みかんのサラダ。

写真(6)

生命の力をいただいているようで気持ちよくお腹にするするとはいっていきます。
サラダの余韻に柚子のジンジャーエールが追いがけしたドレッシングのように口の中を賑やかにします。これぞ日本伝統の口中調味。これがマリアージュ?そういえばマリアージュとペアリングの違いって…?ずっとモヤモヤしていたこの疑問に森上さんが鮮やかな答えを与えてくれました。

「ペアリングとは組み合わせのご提案のこと。1+1=2のこともあります。マリアージュとは1+1が3になったり4になったりするもっと高次元のことです。ただしそう感じる、マリアージュだと決めるのはお客さまです。」

なるほどです。深くうなずいているところに次の一皿が。
蓮根餅のお雑煮。無病息災を願って菊の花を散らしてあります。この季節らしい趣向が素敵ですね。

写真(7)

椎茸と飛魚と昆布の出汁が甘くて香ばしくって、鼻と口とをジャックします。ノンアルコールのペアリングはここではお休み。ワインのペアリングは、ワインにあるスダチっぽさを出汁の海っぽさとあわせているそうです。

森上さんはペアリングをどのように組み立てているのでしょう?まずは味ですよね?

「もちろんそうですが、味だけでできたら天才ですね。わたしは天才ではないので。人物像をみるような感じでしょうか。例えば北海道と沖縄の人がいきなり会っても言葉がわからなかったりとまどってしまいますよね。わたしの経験というフィルタを通して、ディテールまでみて共通項や合うポイントを探していきます。」

そのために必要な能力はなんでしょう?

「イメージ力ですね。わたしはカレーに加えるフルーツキャラクターを表現してみたりします。豚肉にはリンゴがあうからワインでいうとシャルドネ、ロワールのシュナンブランをあわせよう、お茶ならりんごのようなフレーバーのお茶をあわせよう、というかんじでイメージを膨らませていきます。」

ノンアルコールでペアリングをしようと思ったのにはきっかけがあったのでしょうか?

「ご夫婦でお食事にいらっしゃって例えば奥様が飲めないといった場合に、片方だけグラスを卓上から排除するのがしっくりこなかったんです。同じ気持ち同じ空間を共有するのには同じ数のグラスが必要ではないでしょうか。2008年くらいから考えるようになりノンアルコールのカクテルをお出ししたりしていました。I・K・U青山では4種類のうちひとつはお茶も含めたノンアルコールペアリングをオープンの時からしています。」

二つ目のドリンクは、リンゴジュース。青森で農薬、化学肥料を使用せずに育てたリンゴでつくった「まっかなほんと」です。

写真(8)

優しい甘さのリンゴジュースで美味しいのですが、食事に甘いジュースを合わせるなんてふだんのわたしのチョイスではまずないこと。ワクワクします。

運ばれてきたお料理はちぢみホウレンソウのラビオリ。アサリの出汁と豆乳のソース。

写真(9)

ホウレンソウとはともかくとして、アサリとリンゴがこんなにも合うことに驚かされました。
アサリの出汁、ラビオリのテクスチャー、リンゴジュースに「やさしさ」の横串が通っています。リンゴジュースが人肌くらいでラビオリの温度とそろえてあることで料理とドリンクが滑らかに繋がれています。

次はふぐのフリットをレモンソースでいただきます。

写真(10)

愛知産のエディブルフラワーが目にも美しい一皿。レモンの酸味、ふぐの甘み、サックサクの食感に合わせたドリンクは、河内晩柑ジュース。

写真(11)

酸味がレモンとぶつかるかと思いきや、相乗効果でフレッシュさが膨らんで、いよいよふぐの甘味を引き立てます。

ここで洋梨とハチミツのグラニテ。

写真(12)

フワフワでシャクシャクとした食感。歯がキーンとしない温度。ペアリングの考察を通して、食における温度の重要さに今更ながら気づかされます。

そしてメインのお肉。愛農ポークのカツカレー仕立て。

写真(13)

どこが「カツカレー仕立て」なのかわかるよう、裏側からのショットです。
お肉の衣にお米を混ぜてカレーソース、でカツカレー。シェフの遊び心が溢れている一品です。

こちらのメインにお茶がペアリングされています。
1月のコースでは碁石茶に替わって健一自然農園さんの烏龍茶になっています。

写真(14)

キンモクセイを感じる華やかなアロマに大地を感じる滋味深い味わい。こちらを熱々ではなく40-50度に冷ましています。ここでもポイントは温度です。熱々だとカレーのスパイスとぶつかって辛みを強く感じ口の中が火事のようになってしまいますが、温度を下げることでカレーの余韻を包み込みなだめるようです。

ペアリングのタイプはどのように分類されていますか?

「食事とドリンクが拮抗する・反対するタイプと、ドリンクが食事を穏やかにする・食事をメインにするタイプのどちらかが基本ですが、もう一つ、食事とドリンクが同じトーンのタイプがあります。この同じトーンのものは重ねると単調になるのでコースに一回だけと決めています。」

写真(15)

さてコースもいよいよ終盤。デザートは大人プリンとヨーグルトのジェラート。
インタビューも終盤ということで、気になっていたことを伺ってみます。
碁石茶にしても烏龍茶にしても、発酵したお茶です。お肉には発酵茶があうのでしょうか?

「工程の複雑さという点でお肉には発酵茶があいます。工程がシンプルなものだと味も単調になってしまい、バランスが合いません。」

ノンアルコールペアリングにおける課題がもしあれば教えていたでますか?

「今の課題は伝統のお茶のペアリングです。なかなか難しいですね。」

日本茶はなんでも食事を受けてくれる、ではなく、マリアージュの域に達する伝統の日本茶(フレーバードとかではない日本茶)とフレンチのペアリング、たしかになかなかチャレンジングな課題です。
と、ここで、重要な質問を…聞きづらいのですが、こちらはフレンチなのでしょうか?それともイタリアンなのでしょうか?前回訪問した際はパスタが出てきたのでイタリアンなのかな?と思ったのですが(この判別の仕方が正しいかという疑問もありますが…)、今回は炭水化物はメインのお肉の衣としてのお米とパンのみ。

「I・K・U青山はイタリアンでもフレンチでもなくエシカルというジャンルです。バターや生クリームを極力使わず無駄がない、低糖質な料理を心がけています」

お出汁をしっかり効かせていて和食のようなお料理もありましたし、シンプルということではなく、構築的でありながらとても洗練された印象でした。エシカルというジャンル、これから流行るかもしれませんね。

写真(16)

コースの最後は小菓子。
カシスのマシュマロとピスタチオのフィナンシェ、ドゥボーヴ・エ・ガレのチョコレート。紅茶とコーヒーから選ぶスタイル。ここに加えていただけるような日本茶を探さねば…と思いつつ、以前からいただきたいと思っていたミカフェートのコーヒーをチョイス。コースが鮮やかに締まりました。

写真(17)

日本茶をあまたあるドリンクのひとつとして捉え、ワインという確率されたロジックをもつ世界に足場をもってお料理とあわせて自由に表現する森上さんのお話には、発見があり深い納得があり、お食事とともにわたしのお腹にすとーんと落ちました。

ワインのペアリングについては、取材にご同行いただいたこなもんや三度笠さんのブログでぜひご覧ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/mana_big/17739585.html
本記事と照らし合わせて読んでいただけると森上さんのペアリング理論への理解をさらに深めていただけることと思います。

お忙しい中お話を聞かせてくださった森上さん、スタッフの皆様に心から感謝申し上げます。

[I・K・U青山]
〒107-0062 東京都港区南青山6-1-24南青山6124ビル3階
Tel.03-6805-1199  Fax.03-6805-0126
営業時間:17:00-23:00(日休・祝日不定休)
WEB:http://iku-aoyama.com/

インタビュー・文・写真:満木葉子

この記事を書いた執筆者

森上久生

森上久生(もりがみひさお)

第一回 ASIソムリエデュプロマ 第5・6回全日本ソムリエコンクール及び第一回アジアオセアニア セミファイナリスト。レストラン サンパウや ベージュ アラン・デュカス東京のシェフソムリエを経て2013年に独立。 現在はレストランのコンセイエや地元 大分県の地産地消活動なども担う。 IKU青山のエグセクテュブソムリエとしても日々ゲストをもてなす。2015年11月グレイスワイン@ネパール大使館での復興特別イベントでの料理とワインのコーディート及び統括責任者として抜擢 及び 熊本ワインと地産地消の日本料理でのコーディナーターとして招聘。
2013年にソムリエ インディペンダントとして現場回帰を主軸とし、クリエイティブな料理人やオーナーとチームを組み、あらゆるジャンルの料理とワインの根底に流れているものを見抜き、理想のマリアージュを訴求している。その喜びや楽しさを多くの人に寄与することをフィロソフィーとしている。